通勤ラッシュが演出する平成の大名行列
サラリーマンにとって、毎日の生活の一部である電車通勤。
特に、私が住んでいる東京という街は、電車通勤が主な交通手段であり、朝の時間帯の電車というのは非常に混雑する。
東京の電車の路線は、電車網と呼ばれるくらい「網」のように路線が張り巡らされており、何度も路線を乗り継いで出勤する人も多い。
そんな特殊な街だからこそ、不思議な光景を見ることができる。
私が乗り継ぐ地下鉄の路線では、サラリーマン達が、1番後ろの車両から1番前の車両まで列を作って歩くのだ。
ある乗り換え駅で1番後ろの車両に駆け込み、車両の中を歩き出す。
ここの車両は通路のど真ん中にポールが立っており、クランクを縫うように歩くのだ。
それも一人ではない。
人が途切れずに歩いていく。
その中を我が物顔で歩く人達。
それはまさに「大名行列」を彷彿させる。
歩く人達の左右には、椅子に座った人達が朝の眠気と戦いながら首を垂れており、大名行列を目の前にひれ伏す町民のようである。
大名の御一行は真っ直ぐ前を向き、電車の中で何をそんなに急ぐのかと思うほど、華麗にポールを交わしながら進んでいく。
かく言う私も参加する時もあるが、前の人に話されまいと必死について行く。
しかし、気付くと先頭で沢山の部下を引き連れて歩くこともしばしばある。決してリーダーシップを取っているのではなく、単に歩くのが遅くて詰まっているだけなのだが。
ちなみに、私は先頭車両までは行かず、途中でリタイアする。私がリタイアした途端、後ろの2番手が急にペースアップをして私の横を勢いよく通り過ぎ、ふわりと風を感じるのがいつも虚しい。
しかし、彼らはそんな私の気持ちには到底気づかないだろう。
そんなリタイアした者の事よりも先頭車両に到着して、乗り継ぎ時間が1秒でも早くなる事しか頭にないのだから。
朝の通勤電車には形振り構わず先を急ぐ人達で溢れている。
日本は平和ボケなんて言われることもあるかもしれないが、通勤ラッシュはサラリーマン達の戦場だ。
ここまでして働きに出かける人々を見ると、なんて意志が強い国民性なんだろうと改めて感じる。
そんな勤勉さが故に、この世の中をここまで動かしているんだろう。
毎日のイヤなものの代名詞のような通勤ラッシュ。
だが、一方で人々の様々な感情が入り乱れながらも強い意志を感じる異様な空間でもある。
大抵の人は嫌だというが、それでも人が集まる特殊空間。
その中だからこそ、奇妙なやり取りが毎日なされている。
次は何を見せてくれるだろうか。